生きかたのヒントvol.2「夫と話し合いをする(ときどきケンカする)」

『家族と一年誌 家族』は、ひとつの家族を一年間にわたって取材し、一冊一家族を取り上げる雑誌です。当誌の編集長である中村暁野さんは、今から3年前、10年間暮らした都内から自然豊かな里山に移住し、家族4人で新しい暮らしをスタートしました。そんなのんちゃん(いつも通り、こう呼ばせていただきます)がモヤモヤしたときには、夫のひょうさんと、とことん話し合うのだそうです。

家族の暮らしが新しいフェーズに入るとき
夫との対話で方向性が見えてくる

「毎日を自分なりに築いていても、いつの間にか、なんとなく抱えている違和感や、小さな疑問みたいなもの。まだ言葉にはならないそんな小さなモヤモヤをなんとなく感じ始める頃に、夫と些細なことから話し合ったり、時に口論することで、自分自身と、自分たちが今後向かっていく方向みたいなものが見えてくる気がします」と、語るのんちゃん。

話し合いは改まって場を持つのではなく、自然発生的に対話するのだとか。
「話し合おうと意気込んで話すと、逆にうまくいかないですね。つい相手にこう言って欲しいというイメージを持っちゃって、全然違うことを言う夫にイライラしたり……。車の中とか、ふとしたタイミングで意識しないまま話していると、意外と人生を左右する話になったりする。話し合うことで、“あー、これは気づきたくなかったかも”と思うことも、疲労困憊のケンカに発展しちゃうこともある。でも、夫との対話は今まできっかけや転機をくれたと思っています」

「ここに引っ越すときや、夫が会社を辞めて独立する道を選んだときなど、今までやって来たことを大きく変える決断って、うちは突然やってくるんです。自分では気づかないまま実はくすぶっていた気持ちが、対話によってポンッと決断になって出てくる。相手がいるからこそ、気づけるのだなぁって感じます」

「同じように毎日を重ねているつもりでも、自分たちも世の中も時間の中で少しずつ変化していく。だからこそ、今、心地いいことがいつまでも心地いいままかはわからない、と思っています。そこに違和感を感じだしたら、その違和感には正直でいたい、というのがわたしと夫の共通している部分なのかも。仕事の仕方、生活の仕方、子どもとの向き合い方……。これはちょっと違うかもな、と気づいてしまったら、仕方ないかって目をつぶりたくない。“違う”と思ったことはやめて“こうしたい”“こうあるべき”っていう方に、無理やりにでも舵を切っていく感じ。毎度それが無理やりの上に、突然すぎて疲れるんですけれど……。今はまた、お互いモヤモヤッと抱えだしているよな、という時期。だからきっと近く、またグッと舵を切ることになるのかな〜、こわいな〜と思います。でも、暮らしでも仕事でも、心地よさって、そうやって自分で作っていくものだよなって思っています」

今では同じ方向を向いているように見えるご夫婦ですが、過去には、社会に対する思いや生き方の方向性を共有できない時期もあったといいます。
「家族なのに、なぜ同じ思いでいられないのだろうと不満に思うこともありました。でも、何度も衝突しながらも対話を続けて10年で、わたしも夫も少しずつ変わったり影響し合ったりして。最近、不思議と足並みが揃うようになってきたのかも」

「今、家族4人、楽しく暮らしていますが、変えたい、変えていきたいと思うこともたくさんあって。ざっくり言うと、もっと良い世の中にしたい(笑)。環境的にも世界の経済的にも、このままじゃまずいんだろうなってことはきっと、みんな感じてる状況だと思うんです。でも、そのまずさと、自分たちの現実の暮らしってなかなか結び付けられなくて、『これ良くないよな〜』って思いながらも、仕事や生活の中では仕方ないじゃんって目をつむっちゃってるようなことがある。そういう矛盾をひとつずつ、減らしていきたい。さすがにすべてを急転換させることは難しいから、ひとつひとつ、矛盾に家族みんなで向き合っていけたらって。自分も家族も世の中も、どんどん変わっていけばいい、いい方に変わっていけばいい」
まっすぐな眼差しで、のんちゃんはそう語ります。

そして、こう続けました。

「現状を維持したいという気持ちが、夫もわたしにも多分あまりなくて。“維持するものは、何もない”ーそう思えないと、変わらないから」

3月といえどもまだ冬の寒さが残る窓の外で、今年初めて咲いたという庭のミモザの花が、いち早く芽吹きの季節の訪れを告げています。曇天であることを忘れるほどの鮮やかな黄色は、希望そのもの。周囲の植物たちもこの生命力に引っ張られて、一気に春が進みそうです。
冷たい大気をものともせずに力強く咲くミモザの花と、憂うべき社会の状況を何とかして変えようと行動し、発信するのんちゃんの姿が重なりました。

この地球を“変わり果てた惑星”にしないために、私たちは今、何を考え、どう生きるべきか……。

のんちゃんの生きかたのヒントから、そんな、とても重要なメッセージをもらいました。

PROFILE

中村暁野
1984年生まれ。多摩美術大学映像学科時代から音楽ユニットPoPoyansして活動。2010年、結婚・出産。ひとつの家族を一年間にわたって取材し一冊一家族をとりあげる雑誌、『家族と一年誌 家族』の編集長。家族のかたちや社会との関わり方に悩んだことがきっかけとなり、2015年に『家族』の創刊に至り、取材・制作も自身の家族と行っている。9歳の娘と3歳の息子の母。さまざまな媒体で家族をテーマにした執筆活動も行なっている。
サイトでは家族との日々を365日更新中。
【HP】http://kazoku-magazine.com
【Instagram】non19841120

写真/矢部ひとみ 取材・文/羽田朋美(Neem Tree)