人生を豊かにする旅の話「すまあみさんの島日記 第2話 出羽島 2018年夏」

休みがあると、日本の島に行きたくなる。

島は自然にあふれていて、都会からすると少し不便なこともあって、かわりにのんびりと時間が流れている。そこで生活をしたいから、できれば1週間とか、長くステイするスタイルの旅を好む。島にいくと私たち家族も変わっていく。テレビも携帯もない日々とか、朝おきがけに海に飛び込むとか、夕飯のおかずをしとめに釣りをするとか、星をながめながらおしゃべりする時間とか。大切な体験が増えて、自然があると、沢山はいらないんだって思うんだ。

▶︎▶︎▶︎前回はこちら 「すまあみさんの旅日記 第1話 宮古島 2017年 春」

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友人の坂東家が「徳島の島に家を買ったから、一緒に遊びに行きませんか?」と誘ってくれた。
なんでも車が一台もない、島民わずか70名ほどの小さな島だという。
ふたつ返事でお誘いにのった。それからあんまり楽しみだったから「夏休みは無人(みたいな)島行く!」って言いふらしてしまったら、便乗したい人がどんどん増えて、総勢5家族合計16人という大所帯の旅となってしまった。
「え?そんなに増えちゃったんですか?」ってびっくりしつつも、坂東くんがすべての旅の手配を務めてくれた(本当にありがとう)。
みんなは二泊三日、私たち一家はちょっと長い四泊五日の夏休みだ。

「出羽島(てばじま)っていったいどこ」と思うでしょ?
私も初めて聞いた名前でした。
そしてこの島までが、すでになかなかの旅だった。

徳島市内から車で海岸沿いを1時間半ほど南下、牟岐(むぎ)港まで行く。
この小さな港で、島滞在間の食料をすべて調達する。なんたって島には便利なお店は全然ないのだ。それから小さな連絡船に乗りこんで、後ろを振りむいたら、霞がかった山々連なる四国が、まるでいにしえの水墨画のように美しかった。仙人が飛んでいるところを想像しちゃう。

「ジャパンだ!」なんて浮かれてたら乗船時間15分ほどで出羽島にとうとう到着。
港はこじんまりとしていて、周りにぐるっと家が並んでいる。
「切り開かれて家があるのは今見えているところだけだよ」って、本当だ!
とっても小さい島!

後ろにみえるのは四国。夫が頭を丸めたのは悪さをしたからではない

荷物を解いてすぐ海に行くことにした。四国をのぞむ北側の海岸は景色がダイナミック。潮の流れがあって少し怖いけど、シュノーケルすると魚がたくさんいた。
この夏、娘がやっと水中眼鏡を装着できるようになって、もぐっては「さかな!」またもぐっては「さかな!」と繰り返していておかしかった。

背中が赤くなるまで海で遊んだ夕暮れ、坂東くんがちびっこを集めて、船着き場で釣りを始めた。そしたら手のひらサイズの魚が、面白いようにポンポン獲れた。
子どもたちは二本の釣り竿を取り合い、全員が一匹ずつ食べられるくらい魚をしとめた。調理場に届けてくれたその誇らし気な顔は、もうすっかり島の子どもたちみたいだった。それから同じ釣り場でバーベキューをした。
お魚は素揚げにしたら、おいしくってみんなパクパク食べた。

それから星が出てきたから、明かりのない所で見ようとみんなで防波堤に行った。
よじ登って寝っ転がってみると、ちょうど新月で、見たこともないような満点の星空だった。
「この空は絶対流れ星が見れるっ」なんて話してた矢先に、ぴゅーんと立派なのが流れた。
「あ、見えたーー!!」「見たー!!」「え!どこ?見えない!」なんて一同大騒ぎしていたら、それから何本も何本も、びゅんびゅんとまるで音が聞こえるように流れた。
見えるたびにみんなで歓声をあげた。子どもたちはもちろん、40越えしたわたしたち中年どもも、子どもに戻った気持ちでワーキャーはしゃいだ。

寝っ転がった娘が「流れ星って線なんだね!」って教えてくれたのを覚えている。
そんなこと思ったこともなかったから、はっとして「確かに、そうだ!」って思った。
大人の足の上でおちびたちがうつらうつらするまで、長い間星空を見てから家に帰った。
きっとみんな身体はくたくたで、でも充実感いっぱいの気持ちで眠ったと思う。

晴れている日の海は真っ青。でも嵐が近づいていて波がだんだん荒くなってきた
緑深い裏山。途中でけもの道になり、怖くなって途中で引き返した

 出羽島には子どもが誰も住んでいなくて、住民はお年寄りばかり。だけど今、少しずつ若い世代が島に惹かれ移住をしているのだという。そして坂東くんから「ご近所さんに野草について詳しい自給自足カップルがいるんだよ」と聞いて、是非会いたいなぁと思っていた。

少し自分のことになるけれど、ちょうどこのころ私は「エディブルガーデン」(訳・食べられる庭)と「パーマカルチャー」(訳・持続可能な農的カルチャー、かな?)というのを知ってびっくりしていた。ふたつとも自然と農を取り入れた生きるスタイル(解釈がちがっていたらごめんなさい)のことで、思想とともに語られることが多いのだけれど、私の頭の中では「自分の回りに生えているものが全部食べられたら楽園」なんて「エデンの園」みたいなイメージが膨らんで、自分でもそんなガーデンを作りたいという新しい夢を抱きはじめていたのだ。

というわけで、朝から雨がふって家でのんびりしていた日、思い切ってこのカップルのお宅を訪ねてみることにした。他に方法がなかったから、直接家に行って「ごめんくださーい、畑を見せてくれませんかー?」と声をかけてみた。するとふたりはちょっとびっくりして、でも人懐っこい笑顔で家の裏手に招きいれてくれた。

ふたりの名前はトモエルとかれんちゃん。彼らのガーデンを一目見てびっくりした。

まるでふたりの人柄がそのままあふれたような暖かい空間が広がっていた。かすんだパステル色がとてもきれいで、ファンタジー感あふれるお庭。花と野菜と果物が実り、もじゃもじゃふわふわしていて、でもほったらかしとは違う、丁寧な愛情がこめられたガーデン。

ちょうどまさに今、わたしが実際に見たいと思っていたガーデンの姿だった。

トモエルは自分たちのガーデンを「楽園」と思っていた。(わたしが思い描いたイメージのとおり!)それから、おしみなく自分の知っているノウハウをシェアするから、いつでもなんでも聞いてね、力になるよ、と言ってくれた。

そして「まず種を植えることから始めてみるといいよ、簡単だから。それでどんどん知れるから。」と肩を押してくれた。わたしは素直に「うんやるよ!」と心に誓ったんだ。(素晴らしい師匠を見つけた!ともね!)

「朝ごはん採りにおいでよ」とも言ってくれたので、早速次の日、ざるを持ってまた訪ねた。
早朝のガーデンは朝露にぬれてキラキラしていたし、すべてが呼吸をしているようにふくふくしていて良い匂いがした。一緒に庭を回ってちょうどいい頃合いのお野菜を教えてくれた。抱えきれないほどたくさんの恵みをわけてもらって「お塩かお醤油ちょっとと油タラり、で充分おいしいよ~!」ってそれも持たせてくれた(いたれりつくせりだ)。家に持ち帰って家族3人で、ズッキーニの花びらで色んな葉っぱやオクラをくるくるっと巻いて、生のままパクパク食べたら本当においしかった。

同じ日の午後、とうとう東京へ帰る時間が訪れ連絡船乗り場に向かったら、なんとトモエルとかれんちゃんがお別れを言いに来てくれた。
それだけでも泣けるほどうれしいのに、「おなかすいたら食べてね」って、葉っぱにくるんだトトロのお土産みたいな、小さくて暖かい包みを持たせてくれた。
中にはお庭のハーブを粉に混ぜて焼いたお醤油味のお焼きが入っていた。

ふたりは私たちの船が出てからも、岬からずっとずーっと、見えなくなるまで手を振ってくれた。私たちもずっとずーっと手を振り返した。

あれから2年、我が家の庭もずいぶん進歩して、ゆっくりだけど楽園に近づいている、かな?

ガーデンツアーをしてもらった後、旅をともにしたみんなと

トモエルとかれんちゃんは出羽島や日本各地で、パーマカルチャーガーデンの作り方を伝える活動をしています。私も合宿に参加したいな!
◆「Ohanami」
https://www.facebook.com/ohanami.garden/

◆出羽島info
「出羽島おいでってば」
https://tebajima.jp

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次の日記は八丈島。あまりに強い自然の力に畏怖の念を抱き、同じ自然に癒してももらった体験記です。お楽しみに!

PROFILE

すまあみ
ウォールペインター。東京出身。16歳より17年間を北米で過ごす。 NYでライターとして活躍したのち「人を笑顔にする仕事がしたい」とこども部屋のカスタムペインターに転身、 現地でこども部屋やキッズショップのウォールペイントを手掛けた。 2010年に日本へ帰国し長女日子(にこ)を出産。現在は個人宅のほかに、保育施設や公共施設、ファッションストアや百貨店等での作品提供等を行っている。2015年にはファミリアが運営するプリスクールのアート 講師に就任し、こどもの自由な感性によりそったアート教育に従事している。
【HP】https://www.amisuma.com/  
【Instagram】https://www.instagram.com/amisuma/?hl=ja