往復書簡 LONDON⇄東京 vol.8|関根麻貴

ロンドンで暮らすマキオくんこと、エディター・関根麻貴と、東京で暮らすへねちんこと、ニームツリー・マガジン編集長・羽田朋美の往復書簡

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へねちん

こちらは初夏。今朝ははじめてTシャツで散歩したよ。明日はなんと27℃との予報!

最近は散歩→ヨガ、が朝のルーティン。じりっとした日差しと冷たい風が気持ちよくて、気づくと2時間くらい歩いちゃう。5月は一年でいちばん好きな季節だな。

公園ではランニングしたり、サイクリングしたり、芝生でヨガや筋トレしたり、ベビーカー押しながら走るお父さんなんかも。目下のお気に入りコースには、緑も水も豊かですごくリフレッシュする。贅沢ってこういうことだなあと日々をありがたく過ごしているよ。

Regents Canal。水が近くにあるっていいね。ボートハウスの暮らしを見るのも好き。
キッズも走ったり滑ったり。

イギリスは5月10日に首相会見があって、11日から規制が少し緩和されたの。

・リモートワークができない人は通勤が可能に

・屋外での運動制限の解除

というのが主な内容。もちろんソーシャルディスタンスを保った上で。

早ければ6月1日から学校や一部店舗の再開が可能かもしれない、とのこと。データを見ると状況はまだ深刻だし、通常に戻るにはしばらくかかりそうだけど、ピーク時に比べると街が動き出している感じがするよ。

この前の週末は久しぶりにバスに乗ったの。ほぼ2ヶ月ぶり! ロンドンはバスドライバーの感染者が多くて、いまはドライバー側の乗車口が封鎖されてる。それでカードリーダーが使えないから乗車料金は無料。マスクをしているとはいえ、みんな距離をとって座っているとはいえ、少し緊張しつつ利用した。

一部の地下鉄駅はまだまだ閉鎖中。
バスはこんな感じで、運転席付近にテープが貼られて入れなくなっている。

この前書いてくれた旅の話、懐かしいねー。

髪が織り込まれた絵画とか金髪ビーチボーイとか、今でも鮮明に覚えてるよ。そういうヘンテコなことが起きるのも違う国に行く醍醐味だよね。はねちゃんとは滞在3日で仕事はわずか1時間、って韓国出張も一緒にしたっけ。

3人で訪れたロンドンももう10数年前のことだなんて、信じられない。こうして年数で振り返ると、私ってなかなか長く生きてるんだな、って思うよ。そしてだいたいのことを忘れてる。笑

1年後、5年後、10年後も楽しみになるよね。これから人生どう変わっていくのかなって。

そんなことを書いていたら思い出した。

私、はじめて海外一人旅をしたのが30歳ちょっと。当時はフリーランスになりたてで、日々緊張やプレッシャーと戦いながらひたすら働いてた。仕事がどんどん面白くなってきて、自分は大人だし自立してしっかりやってると自覚してたように思う。

でも、言葉の通じない国でいろんなことを経験するうちに(主に失敗。)「私ってこんなもんだな。できないこといっぱいあるし、全然しっかりした大人じゃないわ。」と気づいて、さらに超テキトーにのんびり働いている人を見たり、日本ではびっくりするような常識に触れながら「自分の常識や価値観なんて、ほんの小さな世界のものでしかない。」と感じるようになった。場によっていろんな当たり前があって、たいがいのことに正解・不正解はなくて、違うだけなんだなあと。

いろんな世界を見ることで「こうでなきゃいけない。」という思い込みが外れたことは、私にとって大きなことだったと思うよ。人に対しても大らかになれたし、何より自分が楽になった。

旅先で触れた美しいものや感動体験はもちろんだけど、リスボンでベッドから落ちて指が腫れて病院行ったり、チュニジアで日本語を話す青年に騙されかけたり、石をやるからお茶しようとつきまとわれたり、コペンヘーゲンで逆方向の電車に乗ってスウェーデンに着いてしまったり、ロンドンからベルリン行きのフライト逃したり、チェンマイでパスポート失くしたり、悪戦苦闘したトラブルすらもいい思い出。(こう書き出してみると、どれだけうっかりしてるんだろう私。)

可愛い子には旅をさせよ、って言葉はほんとうによく言ったものだよ。子どもにだけじゃなく大事な自分自身にも当てはまるね。海外じゃなくたって、一歩いつもの生活範囲を出るだけでいろんな体感を得られる。

私は、体感をとても大切にしていて。頭ではわかっていることも、体と心で経験することでやっと腑に落ちたりする。あとはいろんな価値観や文化や空気感を感覚で理解することで、自分が柔軟でいられる気がする。だから大なり小なり、いろんな環境に身を投じ続ける生活をしていきたいな。と、今これを書いていて思った!

最近お気に入りのベーグルショップでコーヒーをテイクアウェイする。今時じゃない素朴な感じがいいんだよね。
Victoria Parkの池、晴れているとだいたい噴水に虹がかかってる。好きな光景。

この前の書簡で書いてくれた幸福感の話、とてもよくわかる。

こちらで暮らしはじめてから、ロックダウンに入ってからは更に、同じようなことを感じてたよ。幸福感って、晴れてるとか、鳥のさえずりとか、知らない人との他愛のない会話とか、そんな些細なところから来るんだよね。人の心を最終的に満たすものって、物質や社会的地位ではないんだなあと思う。

仕事で感じられるドーパミンも大好きなんだけど! 私も新しい仕事にはワクワクするし、撮影でいい写真が撮れたとき心がうわーっと沸き立つもん。だから、2人でよく話してた「中道」が大事なのかなって。仕事でドカーンと高揚感を感じつつ、小さな幸せを味わえるゆとりがある、そんな環境を社会全体で目指したいよね。

しかし昔から、3人の子育てしながら膨大な仕事もこなして、一体どんなタイムマネジメントしてるんだ? と、この怠け者にとってはねちゃんの働きっぷりはもはやミステリーだったので、家族でゆったり過ごせていることはちょっと嬉しいよ。

自分の幸福感と社会の現実のギャップもその通りだね。

個人的にはとても穏やかに過ごしているけれど、ニュースを見ると、なんでそうなっちゃうの? ということが多すぎて途方に暮れる。検察庁法改正も、世論によってどうにか見送りになったけど廃案ではないし。

とはいえコロナウィルスの給付金なども含め、声を上げることによって変わるということをみんなが感じつつあるんじゃないかな。楽観はできないけれど、希望はあると感じてる。

5月ももう終盤に入るのか。私の毎日は特に変わりないけど、この一週間は新たにいろんな人と話したせいか、久々にゆっくり濃く過ぎた感。この2ヶ月を振り返ってみると、生活は同じでもロックダウン直後と今では心持ちがずいぶん変わったような気がするよ。

日本はもうすぐ全国で緊急事態宣言が解除になるんだね。仕事や街の状況など、みんなどんなふうに動いているのかな。

『地球のレッスン』読んだことないので、ヒントを楽しみにしてるね!

2020年5月19日(火) マ。

PROFILE

関根麻貴
ファッションエディター/ライター/ディレクター。主な仕事に雑誌『装苑』『FUDGE』『KINFORK』、多数のブランドムック、英国ブランド『MARGARET HOWELL』『SUNSPEL』の日本版カタログ制作など。2019年春よりロンドン暮らしをスタート。東京でもロンドンでも生活は変わらず、ひとり気の向くまま過ごす日々。趣味は写真、映画、アート、コンテンポラリーダンス観賞、旅、ヨガ。モットーは「人生は全部ひまつぶし」。真面目に、全力でひまをつぶしています。
【Instagram 】sekinemaki 
【note】https://note.com/makisekine/m/m48fb72d934d5

羽田朋美
3歳・5歳・9歳の三兄弟の母、編集者。大学卒業後、教職と迷いながらも雑誌編集者の道を諦めきれず、60 社の入社試験を受けて全て落ちたのちの最後の一社である編集プロダクションに「執念」の入社。アイドル誌の編集、アイドルの写真集の編集に携わる。2001年よりローティーン誌『ラブベリー』(徳間書店)編集部勤務。深夜帰宅・徹夜が当たり前の過酷な日々であったが、充実した雑誌編集者ライフを送る。2004年より同誌副編集長・編集長を歴任。2010年長男を出産し、産後2ヶ月で「執念」の職場復帰。ママ雑誌発刊への夢を膨らます。2011年、ママ雑誌『Neem』を企画。2012年2月、同誌を立ち上げ編集長に就任。2013年4月、徳間書店を退社。編集チーム「Neem Tree」を設立。趣味はキャンプと家族旅で、タイ、スリランカ、ボルネオ島など自然豊かな地を巡る。
【Instagram】tomomi_26_tree