ロンドンで暮らすマキオくんこと、エディター・関根麻貴と、東京で暮らすへねちんこと、ニームツリー・マガジン編集長・羽田朋美の往復書簡。
▶︎▶︎▶︎前回はこちら 往復書簡LONDON⇄東京 vol.9 羽田朋美
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へねちん
今日も朝から長い散歩をしたよ。曇りで寒いけどひんやりした空気もそれはそれでいい感じ。
暑い5月から一変、最近のロンドンはどんよりで気温も10℃台に逆戻り、天気予報によると向こう1週間はこんな天気が続くみたい。まあ、これが普段のイギリスなんだけど。ちょっと前までピクニックで賑わってた公園も、ここ数日はちょっと静か。
誕生日のメッセージありがとうね! 当日は大好きなバービカン・エステートまで散歩したり、好きな花を買ったり、地味ながら楽しく過ごしたよ。去年はマッサージを受けてショッピングして、って一日だったのに、まさかそれができない日が来るとはね。でもこれはこれで、忘れられないバースデー。
街の様子は徐々に変わってきていて、デパートや小売業は6月15日から営業再開、そこでぐっと平常感が増す気がしてる。いま私が最も求めているヘアサロンなどのサービス業は残念ながら7月4日までクローズ。公共交通機関は乗車の際にフェイスマスク着用が義務化されるとか(個人的にはなぜ今までしなかったのかが疑問…。)日本の中学校にあたるセカンダリースクールは、新年度になる9月まで休みだそう。
個人的な暮らしは相変わらず。久しぶりに友達と直接会ったり、少しずつ活動範囲は広まっているかな。この前の土曜日も、友人とイーストロンドンで待ち合わせしてランチをテイクアウェイ。曇天だしけっこう寒い日だったけど、外でごはんを食べたり、街をぶらぶらするのが久々で楽しかった。いまだに多くのお店は閉まっているし、外で会うにはトイレが近くにある場所で!という状況でも(これ、みんなが地味に困ってる問題。)、人と時間を共有できるのは嬉しいね。
前回のはねちゃんの「刺激はないけど、うるおってる感じ。」って話、私もまさにそうで、「カサついてる日もある。」のも同じだよ。最初はこの期間を最大限に活かそう!と思っていたけれど、本来そんなにコツコツきちっとできるタイプではなかった。笑
だからといって自分を責める気はさらさらなく、「まぁ私ってこんなもんだろ」と受け止めてるけどね。焦りとか反省よりも、日々のささやかな楽しみや喜びを味わう気持ちのほうがだいぶ大きい。ロックダウンが始まって2ヶ月半、いちばんの気づきは自分の本来の性質やペースが見えたことじゃないかな。
はねちゃんがお金について考え直したように、私の情報やモノに対する感じ方にも変化があって。心地いい環境や人、モノに囲まれて暮らしていれば、新しいものってそんなに必要じゃないなって思った。私、東京ではものすごいスピードで、膨大な情報に囲まれて過ごしていたんだなぁって。それがとっても面白かったし、たまにその刺激を欲するけれど、今はだいぶペースダウンした気がする。
さらにはねちゃんの「お金をどう使うか」の真似して、私は時間をどう使いたいか考えてみた。そしたら使いたいものより、ここに費やしたくないってものが出てきた。
・ストレスを感じる人間関係
・納得できないことをすること
つまり私の場合、何をしたいかより、何をしたくないかだなって。
心地よくて納得がいけば、あとは何が起こってもアリなんだと思った。これを自覚していれば、自ずと進む方向は見えてくるだろうし、余計な思い込みや常識と呼ばれるものに振り回されることもなくなるだろうなって。
このふたつって、当たり前じゃん!て感じだけど、意外とここに時間をとられていたりするんだよね。それに耐えるのが大人、なんてこともかつては言われていたけど、その価値観にはもうさようならー!でいいと思ってる。
ロックダウン中ではあるけれど、ロンドンでは先週からいろんなプロテストがあったんだ。
アメリカからはじまった「BLACK LIVES MATTER」はイギリスにも広まっていて、たくさんのデモや集会が行われている。事件のきっかけになったGeorge Floydさんが警官に暴行されている動画を見たんだけど、あんなことが当然に行われているのに愕然とした。人種差別問題は以前から知っていたものの、アメリカで警察に命を奪われた黒人の数、白人と黒人の待遇差、いかに警官の暴行が見逃されているか、など、調べるうちに予想をはるかに超える事実を目にして。その国で生まれ育っていながら身の危険にさらされつつ生きるという、日本人には想像し難い経験がそこにある。何百年も前の制度がいまだにたくさんの不幸を生んでいることに、悲しさとか怒り、そして疑問、いろんな感情が湧いてきたよ。
Ben(久々の登場。私のキテレツ…いやユニークなフラットメイト。)にイギリスはどうなのか聞いてみたら「規模が小さいだけで、アメリカと同じだよ」とある記事を教えてくれた。イギリスでは1990年代から74人、罪のない黒人が警官の発砲によって亡くなっているそう。あるケースでは、修理する椅子を持ち歩いていた黒人男性が銃撃されたとか、完全に肌の色からの偏見だよね。こんなにいろんな人種が共存していて、ルール上はみんな平等になっているけど、人々の意識上では人種のヒエラルキー、そして偏見がまだまだ存在している。同じ頃、日本でもクルド人に対する警察の不当な扱いが問題になっていたけれど、警察だけじゃなく民間でもいろんな人種・国籍差別はある。これはアメリカだけじゃなく世界中にはびこる問題だし、コロナウィルス同様、私たちの社会を考えるきっかけを与えられているように思う。
人の意識って、刷新するのが難しい。子どもの頃に擦り込まれた嗜好や習慣がずっと染みついてるのと同じく、人種に対するイメージも深いところに植え付けられてしまっている。だから私たちには自分の意識や考え方をもう一度振り返る必要があるし、子どもたちに間違った仕組みや価値観を受け継がないことが、大人に求められる役割なんだと思う。
NIKEが「自分に関係ないと思うな。傍観し沈黙するな。みんなで変革の一部になろう。」(一部抜粋)というメッセージを発していたけど、本当にそうだなって。すっごく深くて大きな問題だけど、無視せず考え続けることが、この前話してくれた『地球のレッスン』の「誰かの力になること/不正義と戦うこと/人々のために立ち上がること」の第一歩だと感じたよ。人種差別だけじゃなく、環境や貧困、政治、いろんなことに対しての。
ちなみに「人間は少しも聖なるものではない」というところが特に好きだったな。完璧でなくていいと言われているようで、気楽でいられる。でもその上で、いろんなことができるんだよって励まされるような。
2週間に一度これを書いてるけど、読み直すと前回がだいぶ前のことのように感じる。それくらい短期間でいろんなことが変わってるってことだよね。社会も自分の内面も。
日本はそろそろ梅雨が来るかな。元気に過ごしてね。
2020年6月8日(月) マ。
PROFILE
関根麻貴
ファッションエディター/ライター/ディレクター。主な仕事に雑誌『装苑』『FUDGE』『KINFORK』、多数のブランドムック、英国ブランド『MARGARET HOWELL』『SUNSPEL』の日本版カタログ制作など。2019年春よりロンドン暮らしをスタート。東京でもロンドンでも生活は変わらず、ひとり気の向くまま過ごす日々。趣味は写真、映画、アート、コンテンポラリーダンス観賞、旅、ヨガ。モットーは「人生は全部ひまつぶし」。真面目に、全力でひまをつぶしています。
【Instagram 】sekinemaki
【note】https://note.com/makisekine/m/m48fb72d934d5
羽田朋美
3歳・6歳・9歳の三兄弟の母、編集者。大学卒業後、教職と迷いながらも雑誌編集者の道を諦めきれず、60 社の入社試験を受けて全て落ちたのちの最後の一社である編集プロダクションに「執念」の入社。アイドル誌の編集、アイドルの写真集の編集に携わる。2001年よりローティーン誌『ラブベリー』(徳間書店)編集部勤務。深夜帰宅・徹夜が当たり前の過酷な日々であったが、充実した雑誌編集者ライフを送る。2004年より同誌副編集長・編集長を歴任。2010年長男を出産し、産後2ヶ月で「執念」の職場復帰。ママ雑誌発刊への夢を膨らます。2011年、ママ雑誌『Neem』を企画。2012年2月、同誌を立ち上げ編集長に就任。2013年4月、徳間書店を退社。編集チーム「Neem Tree」を設立。趣味はキャンプと家族旅で、タイ、スリランカ、ボルネオ島など自然豊かな地を巡る。
【Instagram】tomomi_26_tree