往復書簡 LONDON⇄東京 vol.3|羽田朋美

ロンドンで暮らすマキオくんこと、エディター・関根麻貴と、東京で暮らすへねちんこと、ニームツリー・マガジン編集長・羽田朋美の往復書簡

▶︎▶︎▶︎前回はこちら 往復書簡 LONDON⇄東京 vol.2 | 関根麻貴

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親愛なるマキオくん

少し時間があいてしまったけれど、元気にしているかな。

私は今日、ギックリ腰の手前のような症状になってしまい、腰を曲げ、尻を突き出しながら狭い歩幅で室内を移動しています。
これ、誰かの歩き方に似ていると思ったら、ひとみばあさんだった!
ちょうどこの間、志村けんさんの追悼番組で、久しぶりにひとみばあさんのコントを観て大笑いしたばかりだなと、鏡に映る、おかしな角度の自分を見て思ったよ。

この謎の腰の鈍痛は、明らかに巣ごもり生活による筋力の低下だわ。
動かないから血行不良も重なって、こんな状態になっちゃったんだろうね。
踏み台昇降で、毎日1万歩歩こうと思った。
……ていうか、「腰の鈍痛」「筋力の低下」「血行不良」「踏み台昇降」「1万歩」ってキーワードが、中高年感炸裂してるね。マキオくんだったら、踏み台昇降じゃなくてヨガなんだろうな。

前置きが長くなりました。
東京は、外出自粛要請が出されてから、二度目の週末です。

マキオくんに最初の手紙を書いたのが3月26日(金)で、今日は4月4日(土)。あれからたった9日なのに、本当にいろいろなことがありすぎて、もう1ヵ月くらい経ったかのよう。
前回は新型コロナウイルスの全世界の感染者数が40万人を超えたことを憂いていたけれど、あっという間に100万人を超えてしまった。
そして、「志村けんさん感染」のニュースが駆け巡ったと思ったら、感染の発表からわずか5日後の悲報。なんだかもう、別の世界に来てしまったような感覚だよ。

志村けんさんの逝去は、わが家にとっても大きな衝撃だった。
マキオくんはご存知かと思うけれど、まぁこ(※夫です)は大のドリフ好きで、今までの『8時だョ!全員集合』と『ドリフ大爆笑』のDVDは全部持っているほど。
私も当時の多くの子どもがそうだったように、土曜の夜8時を何よりも楽しみにしていたし、「もうすぐ志村始まるからチャンネル変えて!」と、全員集合を番組名ではなく「志村」って呼んでたからね。

一昨年の夏には、まぁこはみん坊(※長男です)とふたりで、明治座まで『志村魂』の舞台を観に行ったの。みん坊の笑い声がデカすぎて、隣のおばさまがビビっていたらしいけれど。
みん坊にとっては、生まれて初めて生で観た舞台ということもあって、“志村けん”が鮮烈に心に刻まれていたんだろうね。口には出さなかったけれど、やっぱりショックだったみたいで。
突然、訃報の翌日に「息がしづらい」と言い出したの。
微熱があって鼻水が出ていたから、白湯を飲ませてゆっくりさせて様子を見ていたんだけど、鼻水症状がなくなって平熱に戻ってからも、ときどき息がしづらいと。
まぁこは当初から心因性のものだろうと言っていたんだけど、本人が受診を強く望むので、かかりつけの小児科に連れて行ったら、「医学的には何の心配もありません」という診断。まぁこの言う通りだった。

それから少しずつ息のしづらさはなくなったみたいで、今はもう何も言わなくなったの。
でも、新型コロナ関連の報道を目にすると、「もう新型コロナウイルスのニュースは見たくない」と嫌がるようになってね。
休校措置になって、マンガ読んだり絵を描いたり、自由気ままにやっていると思っていたけれど、実は、小さなストレスが重なっていたんだなと思ったよ。
それが、志村けんさんのこともあって、一気に吹き出したんだね。
子どもだって、突然学校が終わって、先生や友達に会えなくなって、思いきり外遊びができなくて……そんな別世界のような今の状況に混乱し、不安を感じるのは当然だなぁ、と。
今までとは違う世界にいるのに、相変わらず仕事ばかりで子どもに目を向けられていなかったことを反省したよ。

3月最後の日曜日は季節はずれの雪に。外出自粛日でもあったので、30分だけ三兄弟に家の前での雪遊びを許可
次男が誤って玄関先に“雪だるまのもと”を落としてしまった瞬間

3月末にはロックダウンのデマが流れたけれど、今すべきことは「家にいること」「自分も感染しているかもしれないと思って行動すること」にほかならないと、その頃から平日も家にこもることにしたよ。
今抱えている仕事のほとんどがデザイン入れや原稿執筆の段階で、自宅で粛々と作業ができるのは幸いだった。初めてLINEのビデオ通話で売り込みをさせてもらったりもして(そういえば、売り込みしたのも初だった!)。
マキオくんもオンラインでクラスメイトと話したり、英語のオンライン授業を受けたりしていると書いていたけれど、これからしばらくは、今まで外でしていたことを自宅でどう行っていくか……ということを考えていかなくてはならないと思ったよ。

この往復書簡ではなく、3月30日にくれた個人的なメールに、マキオくんが

「起こることを受容するだけでなく、本質を見極めて自ら動く時代なんじゃないかぁと、個人的には思っている」

と書いていたじゃない。その言葉が、家にこもって暮らすことの原動力になったよ。誰かの指示を待つのではなく、状況を判断しながら自分自身で考え、しっかり動いていこうと強く思った。そして、マキオくんの言う「自ら動く」というのは、自己統制するだけでなく、「命を守ろうとしない政府に怒る」ことも含めて……というところにも、強く共感したよ。
同じ頃、周囲には平日も自主的に不要不急の外出を控える人が増え、お店を経営している知人たちの中には、通販やテイクアウトのみの営業に切り替えたりする動きも出始めて。実店舗を開けないことは苦渋の決断だったと思うけれど、たくさんの人たちが「自ら動く」姿を見て、諸外国のような手厚い補償がこの国にもきっとあるようにと願わずにはいられなかった……けれど、そもそも願わなくては叶わぬことなのか?と思ったり。

そうこうしているうちに、くだんの布マスク事件が勃発。
“全世帯に布マスク2枚配布”の衝撃は、ロンドンにもすぐに伝わったよね(Facebookに書いていた、マキオくんとBenのやり取りがおかしかった)。
新型コロナウイルスとは別の危機感を感じたと同時に、選挙の投票ほどわかりやすいブーメランの法則はないな、と思った。大勢の人びとが過去に投票行為をしなかったことや、過去に選んだ政治家が、今目の前に広がるこの世界を作っているわけだから。
もちろん、そんな因果応報的な話で終わせたくないけれど!
Ben(※マキオくんの家主兼フラットメイトです)がもしも日本国民だったら、何て言うだろう。

その後、減収世帯への現金給付一世帯30万円が閣議決定する予定、という流れに。さらにフリーランスを含む個人事業主に最大100万円、中小企業に最大200万円の現金給付を検討しているとの報道も。早急に進むといいな。

(※4月6日追記 児童手当受給世帯を対象に、子ども1人につき1万円給付で最終調整とのこと)

みん坊の通う小学校のチューリップ。子どもたちの姿が見えなくて、拍子抜けしているのでは……と、
チューリップの気持ちになってみたり
マキオくんがロックダウン後に交通量が減ってクリアになったロンドンの空の写真を送ってくれてから、
私も空をよく見るようになった

4月4日の東京は、1日あたりの感染者数が初めて100人を超えて、感染爆発が発生しかねない状況。すでに医療供給体制が逼迫する地域があって、感染爆発の前に医療崩壊が起こる可能性もあるとのことで、本当に日本が待ったなしの状態にあることを痛感する日々だよ。
マキオくんが前回の往復書簡に「先の見えないこと」への不安度の話と、そこからどうやって気持ちや暮らしを立て直し整えていったのかを、経験とともにとても論理的にまとめてくれたじゃない。あの文章を何度も読み返しては、私自身の気持ちの持っていき方や、これからの暮らしについて考えているよ。

日本よりも先に感染が広がった世界の状況は、日本人に、そこから学び、考え行動する猶予を与えてくれてたよね。もはや日本も差し迫った状況にあるけれど、世界の感染拡大地域から届く深刻なメッセージを受けて動いた人はたくさんいると思うし、実現できたこともあると思う。
私にとって、マキオくんがロックダウン下のロンドンで経験していることや感じている思いも、まさにそう。これから日本でどう暮らしていくかを考える上での指標。
それは本当にありがたいことだと思う。そして、改めて、マキオくんの言う「本質を見極めて自ら動く」ことをしていきたいと感じたよ。

そちらの様子も、また聞かせてね(日本語ペラペラのガーリー銀行マンが気になりすぎる。また、キャラが濃そうな……(笑)。Oasis再結成も気になる! ギャラガー兄弟、関係修復したの?)。

2020年4月4日(土)へねちんより

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PROFILE

羽田朋美
3歳・5歳・9歳の三兄弟の母、編集者。大学卒業後、教職と迷いながらも雑誌編集者の道を諦めきれず、60 社の入社試験を受けて全て落ちたのちの最後の一社である編集プロダクションに「執念」の入社。アイドル誌の編集、アイドルの写真集の編集に携わる。2001年よりローティーン誌『ラブベリー』(徳間書店)編集部勤務。深夜帰宅・徹夜が当たり前の過酷な日々であったが、充実した雑誌編集者ライフを送る。2004年より同誌副編集長・編集長を歴任。2010年長男を出産し、産後2ヶ月で「執念」の職場復帰。ママ雑誌発刊への夢を膨らます。2011年、ママ雑誌『Neem』を企画。2012年2月、同誌を立ち上げ編集長に就任。2013年4月、徳間書店を退社。編集チーム「Neem Tree」を設立。趣味はキャンプと家族旅で、タイ、スリランカ、ボルネオ島など自然豊かな地を巡る。
【Instagram】tomomi_26_tree

関根麻貴
ファッションエディター/ライター/ディレクター。主な仕事に雑誌『装苑』『FUDGE』『KINFORK』、多数のブランドムック、英国ブランド『MARGARET HOWELL』『SUNSPEL』の日本版カタログ制作など。2019年春よりロンドン暮らしをスタート。東京でもロンドンでも生活は変わらず、ひとり気の向くまま過ごす日々。趣味は写真、映画、アート、コンテンポラリーダンス観賞、旅、ヨガ。モットーは「人生は全部ひまつぶし」。真面目に、全力でひまをつぶしています。
【Instagram 】sekinemaki 
【note】https://note.com/makisekine/m/m48fb72d934d5