往復書簡 LONDON⇄東京 vol.2|関根麻貴

ロンドンで暮らすマキオくんこと、エディター・関根麻貴と、東京で暮らすへねちんこと、ニームツリー・マガジン編集長・羽田朋美の往復書簡

▶︎▶︎▶︎前回はこちら 往復書簡LONDON⇄東京 vol.1 | 羽田朋美

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まさかここでも使うとは思わなかったよ、へねちん。笑

今や、はねちゃんと書くのが少し照れ臭くなっている自分がいる。
目まぐるしい毎日だけど、元気かな?

そう、19日に電話で話した後、20日夜にはレストランやパブの営業停止令が出て、23日夜にはロックダウンと、あっという間に状況が変わったの。
それまでイギリスは他のヨーロッパ諸国に比べゆるい対策をとっていて、検査数も少ないし、それが批判されていたんだけど、遅ればせながらとはいえバシッと対応を変えたのは正しいと思うよ。ボリス・ジョンソンは好きじゃないけど「家にいろ! 補償はする!」と強く言い切る姿は説得力があったし、外出禁止令によって感染拡大を防げると安心もした。

・生活必需品(食品、薬)などの買いもの、1日1回、一人または世帯の人との運動、は外出可能
・必需品以外を売る店は全て閉鎖
・2人以上での集まりは禁止。結婚式を含む社会的イベントの禁止。(葬儀をのぞく)

こちらのルールはこんな感じ。というわけであまり外に出ていないんだけど、スーパーや公園では、それぞれが距離を保ちながら買い物したり運動したりしているね。
ロンドンは緑が世界一多い都市で、広々とした素敵な公園がたくさんあるの(そこが好きな理由のひとつ)。いまは桜をはじめチューリップやらいろんな花が咲いてるし、気候もすっかり春で。公園と太陽の日差しをこよなく愛するイギリス人、外でのびのびと過ごせないのはなかなか辛いだろうなぁと思うよ。もちろん私もだけど。

ロックダウン直前に散歩した近所のVictoria Park。広いし池も芝生もあるし気持ちいいの
イギリス人に欠かせないパブもしばらくクローズ

トイレットペーパー、消毒液、マスクはもちろん、パスタや米などの保存食系も品切れ状態。肉、魚、野菜やフルーツはまあまあ揃ってる。
そしてまさかイギリスでマスク姿の人を見ることになるとは思わなかった。私は花粉症が出てしまい困っていたんだけど、私のオレンジジュース飲んじゃうBenが5枚しかないマスクの1枚をくれたよ。マイペースで相当うっかりしてるけど、裏表がなくて気前いいのがいいところ。このおかしな・・いやユニークな同居人が家篭り生活をちょっと明るくしてくれている。

お店は一度に入れる人数が決まっていて、こんな感じでみんな距離をとって行列してる
ロンドンは桜も意外と多い。すっかり満開

NHS(イギリスの国営医療制度)はフル回転状態で、リタイアした人やボランティアなど人員を募ってる。木曜の夜、外から拍手や歓声が聞こえたの。「まさか憂さ晴らしのパーティ?」と思ったら、花火が打ちあがって、みんなが家のバルコニーから拍手を送ってた。NHSで働く人へ感謝とエールをおくるイベントだったみたい。
医療関係者が力を尽くしてくれている今、私たち一人ひとりもできるだけ感染を広げないようつとめることが大切だと思った。

ロックダウン後、交通量が減ったら空がクリアに

この往復書簡をはじめようと連絡をもらったのが25日か。うん、気持ちが不安定だと書いたね。
結論から言うと、今はすっかり落ち着いたよ。
でもどうして心が揺れたんだろうと考えてみた。

今思うと自信過剰だったんだけど、3.11の震災やその後の原発事故(※私の実家は福島です)の経験もあったから、こういう時の心の持ち方、過ごし方は知っているつもりだったんだよね。
それと、私はフリーランスとして仕事をしてきて、さらに東京での基盤を手放してロンドンにいる。ここには学びに来ているからほとんど働いていないし、東京に戻ったとしてもまた仕事が来るという保証はない。もともと、先が見えない状態は自分にとって当たり前だったから、この新型ウィルス騒ぎも、一個人としては落ち着いて受け止められると思っていたの。

だけど「先の見えないこと」への不安度は、自分で選択したか、そうでないかで違う。
自分ひとりの問題か、みんなの問題かでも違う。
たくさんの人が亡くなって、仕事を失う人がいて、さらに相手は目に見えないウィルス。
自分の力ではどうしようもないことに直面したとき「さてどう頑張ったらいいんだろう?」と思ってしまったんだよね。いろんな可能性が閉ざされてしまった気がした。
そんな気持ちのせいか、花粉症のせいか、2、3日は倦怠感のなか過ごしていたよ。

だけど、毎日のルーティーンをこなし、できるだけ心地よく過ごすことで、リズムができたのかな。オンラインで英語の授業をうけて、自習して、ブログを書いたり翻訳の仕事をして、夕食を作り、湯たんぽを抱えて眠る。結局、今できることを続けるだけだな、となった。
クラスメイトとオンラインで話したり、DJの友人が毎晩9時からストリーミング配信をしてくれていて、それを聴くのも日課になってる。実際には会えないけれど、こうやって人と繋がれることもだいぶ助けになるよね。

ロックダウン前の日曜、コロンビアロード・フラワーマーケットで買ったアネモネ。
イギリスでは、花がより人々の暮らしに根づいている

ところでキャンプの写真、すごく楽しそうで自然が恋しくなった。焚き火も、家族混合のボート乗りも最高!
スリランカの森の中のアーユルヴェーダ、チェンマイのじりじりした日差し、新島のどでかい波の音、などなどいろんな旅の思い出がよみがえってきた。ほんとうに、自然に勝るものはないね。

19日の電話のあとだったかな。いつもの帰り道、植物は順調に芽吹きはじめているし、リスや鳥がふだん通り生活してるのを見て、人だけがこうして右往左往しているなぁと思ったの。世界は人間がコントロールしているようで、全然違うんだよね。

今日はこうして書いている間にも、皇太子やボリスに続き3人の議員が感染したとか、NHSを助けるためにOasisが再結成するとか、また新たなニュースが入ってきた。
おかしなフラットメイトの話とか、最近出会った日本語ペラペラのガーリー銀行マンとか、たのしい人たちのこともたくさん書きたいんだけれど、事態の少しでも早い収束を願いつつ、またね。

2020年3月28日(日) マ。

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PROFILE

関根麻貴
ファッションエディター/ライター/ディレクター。主な仕事に雑誌『装苑』『FUDGE』『KINFORK』、多数のブランドムック、英国ブランド『MARGARET HOWELL』『SUNSPEL』の日本版カタログ制作など。2019年春よりロンドン暮らしをスタート。東京でもロンドンでも生活は変わらず、ひとり気の向くまま過ごす日々。趣味は写真、映画、アート、コンテンポラリーダンス観賞、旅、ヨガ。モットーは「人生は全部ひまつぶし」。真面目に、全力でひまをつぶしています。【Instagram 】sekinemaki 
【note】https://note.com/makisekine/m/m48fb72d934d5

羽田朋美
3歳・5歳・9歳の三兄弟の母、編集者。大学卒業後、教職と迷いながらも雑誌編集者の道を諦めきれず、60 社の入社試験を受けて全て落ちたのちの最後の一社である編集プロダクションに「執念」の入社。アイドル誌の編集、アイドルの写真集の編集に携わる。2001年よりローティーン誌『ラブベリー』(徳間書店)編集部勤務。深夜帰宅・徹夜が当たり前の過酷な日々であったが、充実した雑誌編集者ライフを送る。2004年より同誌副編集長・編集長を歴任。2010年長男を出産し、産後2ヶ月で「執念」の職場復帰。ママ雑誌発刊への夢を膨らます。2011年、ママ雑誌『Neem』を企画。2012年2月、同誌を立ち上げ編集長に就任。2013年4月、徳間書店を退社。編集チーム「Neem Tree」を設立。趣味はキャンプと家族旅で、タイ、スリランカ、ボルネオ島など自然豊かな地を巡る。
【Instagram】tomomi_26_tree