ロンドンで暮らすマキオくんこと、エディター・関根麻貴と、東京で暮らすへねちんこと、ニームツリー・マガジン編集長・羽田朋美の往復書簡。
▶︎▶︎▶︎前回はこちら 往復書簡LOMDON⇄東京 vol.8 | 関根麻貴
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マキオくん
5月が終わろうとしているね。
外出自粛がこんなに気持ちのいい季節に重なってしまったのは残念ではあったけれど、窓の外に目を向ければ青々と生い茂った木々が風に揺れているのが見え、ベランダに出れば暖かな陽の光が心地よく、この季節に助けられた部分もいっぱいあったなぁって。
改めて、5月23日=Go兄さん(すぐ語呂合わせするクセは直らない)、お誕生日おめでとう!
この日の東京も晴天だったよ。本当に、穏やかなよい季節に生まれたね。
5月のまちなかを2時間くらい歩けちゃうのも、わかる!
それにしてもロンドンの街並みは魅力的だね。リージェンツ運河の写真、素敵だった!
最近の私は……。
相変わらず粉もん祭りしたり、電話インタビューしたり原稿書いたり、散歩したりしなかったり、太ったり痩せたりしながら、取り立てて日記に書くこともないような日々を過ごしたりしているよ。
刺激はないけれど、うるおっている感じ。あ、カサついている日もまぁあるか(笑)。
以前、マキオくんが「これだけ同じリズムで生活していると、自分の好不調にすごく敏感になるね」と書いていたけれど、まさにそれ!
気持ちがドーンと落ちることはないけれど、昨日はそこそこあったやる気が今日はほんのちょっと足りないとか、ほとんどがルーティンで同じような1日でも、心の状態によって直面する出来事の受け止め方が微妙に違うとか……そういう小さな気持ちの動きに敏感になったし、その変化を観察しているようなところもある。
ちなみにカサついている日は、ほとんどのタスクを半分くらいしかやらないようにしているよ。仕事も目標の半分。ごはんも簡単なメニューにして、労力を半分に。踏み台昇降(まだやってる笑)も、1万歩を5000歩にしちゃう!
そして今これを書いていて、5月の後半は、半分くらいしかやらない日が多かったことに気づいたよ。
外出自粛直後は気が張っていたし、家こもり生活の中でいろいろとやりたいこともあって結構がんばっていて。なんか、心と暮らし、整ってきてない?って感じだったんだけど、途中から元来のぐうたらな私が戻ってきちゃった。
本当は45ℓのゴミ袋片手に部屋中をまわってスペース・クリアリングしたり、旅行写真のデータ整理してフォトブックにしたり、北側の庭を整えたりしたかったのに、そこまで行きつけなかったわ。
とは言え、達成できたこともたくさんあるから、よしとしよう。
中でも家計の棚卸しは、やってよかったこと。一般的な家庭では普通にしていることなのかもしれないけれど、ほら私、10年前までは宵越しの銭は持たない粋で無計画な30女だったじゃない。その名残り(?)で、毎月の収支はおろか、住宅ローンの残額も、預貯金の総額もわかっていなかったという。それで、手帳に全部書き出して、まずは把握することから始めてみたんだ。そうしたら、当然ながら、毎月これくらい収入があればこれだけ貯金できてこれだけ使えるというのが明確になって。
さらに、お金を何に使うか考えたら、今後どう暮らしていくのかが、はっきりと描けるようになった。
経済的安定も大切だけど、お金は使わなければただの紙。お金を使って何をするのか考えることは、人生を考えることにつながるのだなぁと今さらながら痛感したよ。
お金を使って何をするのかを考えたとき、真っ先に浮かんだのがこの2つ。
・私もまぁこも、子どもたちを連れていろいろなところを旅したい。
・食べ物は、できるだけ地球と人にやさしいものを選びたい。
この2つが叶えば私の人生はかなり満たされるとわかったら、逆にお金をかけなくていい部分も見えてきて、これまでみたいにやみくもに稼がなきゃ!という思いから解放されて、気持ちがすごく軽くなった。
マキオくんは、お金の使い方にも昔からセンスを発揮していたよね。
経験値を上げ、学びを深めるために自己投資してきたし、ここぞというときにしっかりとお金を使うことで、人生そのものを切り拓いてきた。
前回書いてくれた海外一人旅の話も本当にそう。
世界を見てきた中で「体感」してきたことが、間違いなく、マキオくんの人生を広げたと思う。
過去の貴女に会ったら、「そのお金の使い方、間違っていない。みうらじゅんばりにイカしてるよ!」と耳打ちしたいくらいだわ(私の中で、みうら氏は、お金を使う才能がある人の代名詞)。
旅の話の流れで書いてくれた「体感」の話にも共感。
「頭ではわかっていることも、体と心で経験することでやっと腑に落ちたりする。あとはいろんな価値観や文化や空気感を感覚で理解することで、自分が柔軟でいられる気がする。」ってところ、何度も読み返したよ。
それが多様性を認めることや、自分と違う考えを排除しない生き方につながるんだろうなぁと思った。
うん、マキオくんは「いろんな環境に身を投じ続ける生活」を、これからもずっとし続けていくのだと思ってる。
緊急事態宣言が解除された東京は、6月1日から緩和の段階が「ステップ2」に進むそう。昨日までは5日連続で2桁の新規感染者が出ていたし、人と人との接触が増えることで第2波の発生も懸念されるけれど、新型コロナの影響で職を失った人、家を失った人のインタビューを見て、人も経済もそろそろ動き始めないといけない段階に入ってきていることを感じているよ。
「ポストコロナ」ではなく「withコロナ」なんて言葉も目にするけれど、この先、どんな世界が待っているのだろうね。
もう既に、いろいろなことが変化しているのは感じてる。たとえば検察庁法改正に芸能人が意見を表明するとか。昔だったら考えられなかったことだよね。
ひとりひとりの声は小さくとも、それが集まって大きなうねりになって、「世論批判を考慮して」先送りにすることができたことも、大きな変化だと思う。だって、2015年の安全保障関連法案に反対する国会前12万人デモをもってしても、強行採決した政権だったわけだから!
マキオくんの、「楽観はできないけれど、希望はあると感じてる。」に、同感!
新型コロナで人びとの意識が大きく変わることで、これからの世界もこれまででは考えられなかったものに、しかも「希望」の方に、シフトしていくと思ってる。
そんなこれからの世界で、一人の人間としてどう行動して生きていくべきか。
vol.7で、『地球のレッスン』という本に、そのヒントがあったと書いたよね。
この本に記されているのは、30年間かけて北山さんのもとに集められた詩や、考え方や、教えで、それらはすべて、地球でいかに生きるかの指標になっているんだ。
その指標とは、
地球をひとりの生きている女性のように大切にすること。
自然を、すべての命を、敬うこと。
自分自身が幸福でいること。
どんなときも笑うことを学ぶということ……etc.
そんなたくさんの大切なメッセージの最後に、あとがきとして添えられていたのが、「人間は元々聖なるものなどではない」と題された、北山さんのこの一文。
「人間は少しも聖なるものではない。
人間は人間。
あなたもわたしも聖なるものなどではない。
しかし人間には聖なることをすることができる。
誰かの力になること
不正義と戦うこと
人々のために立ち上がること
私たちの母なる地球を守ること(後略)」
『地球のレッスン』北山耕平 著・太田出版
「誰かの力になること/不正義と戦うこと/人々のために立ち上がること」の部分がすごく心に響いたんだ。
ずっと探し出せなかった、“もっと世の中をよくしたい。でも、一人の人間として、何ができるのだろうか……”の答えは、これだ!って思った。
どれも、普段の生活の中で意識的に行っていけることだし、この考えを根底に、暮らしを紡いでいけばいいんだって思ったの。
2011年の東日本大震災以降、自分の暮らし回りを整えることがブームになったよね。マキオくんにも手伝ってもらっていた雑誌『Neem』も然り、子育てに忙しいママでも自分の生き方にしっかりと目を向けて、ていねいに、心豊かに暮らしていこうというコンセプトだった。
その後、「ていねいな暮らし」は国民権を得たけれど、その先にある、社会とつながった暮らしや、生きていくうえでの使命みたいなものを実現する暮らしをする人が増えたら世の中はもっとずっとよくなるはずだと感じていた。その一端を担うためにこのニームツリー・マガジンを始めることを決めたのだけど、私自身、具体的にどう行動していいか、確固たるものを確立できていなかったんだって思った。
でも、やっとわかったよ。
「誰かの力になること/不正義と戦うこと/人々のために立ち上がること」の「誰かの力になること」は、自分のいるコミュニティの中での人との関わり合いでもできることだし、消費行動の中でもできる。社会的包摂の理念を持って生きることも、結果的に“誰かの力になること”につながると思う。
「不正義と戦うこと」は、選挙の投票行動で意思表示することで可能だし、ツイートのハッシュタグで声を上げることもそうだよね。
「人々のために立ち上がること」は、社会とつながった生き方をすることについて、自分の考えを友達との会話やSNSで発信したり、子どもに教えたりすることが、暮らしの中でできる方法だと思う。
そうやってひとつひとつ考えていたら、今の時代にこの地球に生まれた意味も感じられて、小さな力だけど、できることをこれからもしていこうって思えたよ。
ぐうたらかあさん、そこは本腰入れてがんばるわ。
それでは、またね!
6月も元気に過ごしましょ。
2020年5月31日(日)へねちん
PROFILE
羽田朋美
3歳・5歳・9歳の三兄弟の母、編集者。大学卒業後、教職と迷いながらも雑誌編集者の道を諦めきれず、60 社の入社試験を受けて全て落ちたのちの最後の一社である編集プロダクションに「執念」の入社。アイドル誌の編集、アイドルの写真集の編集に携わる。2001年よりローティーン誌『ラブベリー』(徳間書店)編集部勤務。深夜帰宅・徹夜が当たり前の過酷な日々であったが、充実した雑誌編集者ライフを送る。2004年より同誌副編集長・編集長を歴任。2010年長男を出産し、産後2ヶ月で「執念」の職場復帰。ママ雑誌発刊への夢を膨らます。2011年、ママ雑誌『Neem』を企画。2012年2月、同誌を立ち上げ編集長に就任。2013年4月、徳間書店を退社。編集チーム「Neem Tree」を設立。趣味はキャンプと家族旅で、タイ、スリランカ、ボルネオ島など自然豊かな地を巡る。
【Instagram】tomomi_26_tree
関根麻貴
ファッションエディター/ライター/ディレクター。主な仕事に雑誌『装苑』『FUDGE』『KINFORK』、多数のブランドムック、英国ブランド『MARGARET HOWELL』『SUNSPEL』の日本版カタログ制作など。2019年春よりロンドン暮らしをスタート。東京でもロンドンでも生活は変わらず、ひとり気の向くまま過ごす日々。趣味は写真、映画、アート、コンテンポラリーダンス観賞、旅、ヨガ。モットーは「人生は全部ひまつぶし」。真面目に、全力でひまをつぶしています。
【Instagram 】sekinemaki
【note】https://note.com/makisekine/m/m48fb72d934d5