往復書簡 LONDON⇄東京 vol.7|羽田朋美

ロンドンで暮らすマキオくんこと、エディター・関根麻貴と、東京で暮らすへねちんこと、ニームツリー・マガジン編集長・羽田朋美の往復書簡

▶︎▶︎▶︎前回はこちら 往復書簡LONDON⇄東京 vol.6 関根麻貴

—–

マキオくん

今日もロンドンは晴れかな。

マキオくんがときどきストーリーに上げている窓の外の様子が、私にとってもすっかり馴染みの風景になりつつあるよ。さらにこの書簡が、まだ一度しか訪れたことのない異国の地を、とても近しい場所にしてくれている。

私にとって、初めてのロンドン。
あれは何年前? 15年前……それとも16年前? 
一緒に飲んでいるとき、マキオくんとあいこがロンドンを旅行するという話を聞かせてくれて。
「はねちゃんも行く?」と、ふたりが合コン(死語)でも行くようなノリで聞いてきて、「行く!」と即答して実現した三人旅。
ここにアップできるロンドン旅行の写真はないものかと探してみたんだけど、私の顔がぶさいくすぎてやめた! どの顔もくまなくむくんでるの。おそらくパブでビールばかり飲んでいたんだろうね。こけしみたいな髪型の貴女は、どれもかわいく写っていたよ。

私のむくみ顔はさておき、写真の中で大爆笑している当時の私たちは、十数年後にマキオくんがロンドンで暮らすことになるとは知るはずもなく。改めて、人生っておもしろいなぁと感じたよ。
あれからマキオくんは何度もロンドンを旅していたね。
やっぱり、好んで何度も出かける場所って、縁があるんだろうね。

旅行といえば、先日、夏休みに予定していたバリ島のホテルをキャンセルしたよ。
昨年の夏の終わりにマイルが結構溜まっていることに気づき、冬休みにどこか行こうか!ってことになったんだけど、人気の観光地の特典航空券は、数ヵ月後の繁忙期にそうそう取れるものじゃないのね。42歳にして初めてそのことを知り、1年後、オリンピックで湧いているであろう日本を飛び出す自分たちの姿に思いを馳せながら、デンパサール行きチケットを5名分ゲットしたの。
昨年のうちに支払済みの10日分の宿泊費がもう間もなく振り込まれるけれど、はからずも、持続化給付金になっちゃった。
この“じぶん持続化給付金”は、売り上げが減った分の大きな助けになってくれそう。
まさに、過去からのプレゼント!

バリ島へは、またよきタイミングで行けると思ってる。
そう言えば、私の初めてのバリ旅行も、マキオくんと一緒だった。
ウブドを散策していたときに入ったアトリエで出会ったキリストみたいな風貌のアーティストの絵が素敵だったんだけど、どの作品も彼の髪の毛が練り込まれていて。
「髪の毛が入っていないのにしてほしい」と言ったら、これは髪の毛入っていないと奥から出してきた絵を信じて買ったのに、帰国してから絵の具がどんどん剥がれてきて、やっぱり髪の毛練り込まれているじゃんよー!
というエピソードほか、クタビーチの日本語堪能な怪しい金髪ビーチボーイを筆頭に、クセのある人物が続々登場。
なかなかの珍道中だったなぁ……と、いろいろ思い出して、いとおしい気持ちになったよ。
今回のことで、過去の旅の思い出が尊く、何より、次回の旅の計画が楽しみになった。

少し前のトーキョーセタガヤ
街はピンクで溢れてた!
街の草花をここまで熱心に見て歩いたのは、つつじの蜜を吸っていた小1以来かも

マキオくんが書いていた、この先ロックダウンが終わり、従来の暮らしに戻ったとき、みんなが“元通りの光景”をどんな風に感じるんだろう……という話。
私も同じことを思う。
最近、スーパーで、公園で、道端で、立て続けにめっちゃやさしいお父さんを3人見かけたの。
3人とも、30代〜40代前半くらいかな。未就学の小さい子どもをひとりかふたり連れていたんだけど、子どもに語り掛けるその口調がとても穏やかで、仏のようだった。
我が子をとても大切にしていて、丁寧に向き合っているのが伝わってきた。
その姿を見て、ふと、もしかしたら普段は仕事が忙しくて、なかなか子どもと関わる時間が取れなかったのかなって思ったんだ。でも、今はずっと一緒にいられる。その中で、改めて我が子のかわいさとか、家族で過ごす時間の尊さや、子育てのよろこびに目を向けることができたんじゃないかなって。そして彼らは、そんな今の生活にとても満足しているように感じたんだ。
私の妄想ストーリーかもしれないけれど、少なくとも、この生活スタイルになって、心にゆとりが生まれたのは確かだろうな、と。

前回の私の書簡に、幸福感に関して大きな変化があったと書いたじゃない。
私が感じていた幸福感も、まさにこの類のもので。
新型コロナの蔓延で、我が家も撮影が延期になったりプロジェクトがストップしてしまったりして仕事も収入も激減したけれど、夕方6時には食卓を囲めたり、ゆっくり湯船に浸かれたり、早朝に季節の花を愛でながら散歩ができたり……そういうひとつひとつのことが本当に尊いなぁって思えて、この上ない幸福感を感じたんだよね。
今までどれだけ仕事ばっかの人生だったの?って話だけど。
事実、仕事が生きがいだと思っていたし、仕事をしているときの自分が最も自分らしくて輝いていると思ってた。
毎日時間に追われながらインベーダーゲーム(古っ!)で敵をやっつけるかのごとく、いくつものタスクをこなして達成感味わって、ドーパミン出しまくってたんだろうね。それで、ますます幸福感が増幅して、仕事にのめり込んじゃう。まさに、ワーカホリックの原理!
そんなふうに仕事に向き合えるのは悪いことじゃないけれど、私の場合は暮らしをだいぶ犠牲にしていたなぁ……と。だから今、こうして人間的な暮らしを取り戻して、生活不安よりも幸福感を感じているのかもしれない。

日々の暮らしの些細な出来事で幸福感感じられるのって、こんなに幸せなことだったんだね。馬車馬のように働くことで脳内伝達物質を出して幸せ感じ、中毒性があるからまた働き……とやってきたから、身近にある小さな幸せには気づけなかったんだと思う。
42年間、私は何をやってきたんだ!って思ったよ。

5時台の近所の公園
子どもたちも早起きして楽しんでいたけれど、寝坊助な彼らはあれから一度も行ってない(笑)

これまで仕事を最優先にしてきた人、常に競争してきた人、資本主義社会にどっぷり浸かって生きてきた人。そういう人たちは、今の社会になって暮らしに大きな変化があっただろうし、その中で気づいたことも、たくさんあるんだろうな。
彼らが“元通りの光景”を見てどう感じるのか、そしてコロナ後の人生をどう選択していくのか、すごく知りたいと思った。
「いかに忙しかったか気づいた」と言っていたマキオくんの友人のこれからも、とても気になる。

「視界をあえて狭めてみるときが来たんじゃないか」って話も、すごく共感した。
マキオくんの言うように、自分軸で生きることができたら、見返りなんて期待せずに自然と思いやりある行動を取れるようになるんだろうな。ロンドンの街でマキオくんが人びとのちょっとした親切をよく目にするみたいに、この国も、そんな社会になってほしいって心から思う。
小学校の道徳の授業だって、「人に親切にしましょう」じゃなくて、「幸せに自分を生きましょう」と説いてくれればいいのに。幸せに自分を生きられれば、誰かに親切することだって、誰かを幸せにすることだって、当たり前のようにできるはずだから。
「幸せに自分を生きる」ー。今こそ三兄弟に、このことを伝えていきたいと思っている。

ところでマキオくんがアップしていたオープンサンド、おいしそう!
わさびピーナッツバターなんてあるのね!
お宅のBenが日光浴しているバルコニーで、ワイン片手に食べたい!
うちも最近はピザやクッキー焼いたり、糠やおからのケーキを焼いたりと、コロナ前は滅多にやらなかった粉もの作りを楽しんでいるよ。
久々にグルテン祭りしたら、まぁこの鼻水が止まらなくなって大変だったけど。
ちり紙細くしたのを両方の鼻の穴に突っ込みながらパソコン打ってたよ(笑)。

赤かぶと新玉ねぎと大根葉のピザ。旬の野菜でいろいろ楽しんでいるよ
買い出し帰りのまぁこと私。私が切ってあげた髪が虎刈りになっているのだが、影だからわからんね
近所の友人たちと物々交換したよ。家の外で落ち合い、マスク姿で2m以上距離をとって少しだけ近況報告

日本では今、コロナ禍の混乱の裏で、とんでもない法改正が強行されようとしている。
今日、たまたま国会中継を目にしたのだけど、野党議員の「検察庁法改正案への国民の怒りをどう受け止めているか」という質問を、首相は完全にスルー。
民主主義が殺される瞬間を目にしたようで、ゾッとした。
この国は今、これからの社会生活を大きく左右する岐路に立たされていると思った。

先ほど幸福感の話をしたけれど、それは私の半径1メートルの話であって、世の中全体を俯瞰してみると、目を背けたくなる現実が溢れている。
知ったからには何とかしなきゃって思うし、でも、正直、何をすればいいのだろうと悩んでしまう。
そんなとき、インスタでブックカバーチャレンジがまわってきて、久しぶりに開いた北山耕平さんの『地球のレッスン』に、たくさんのヒントが詰まっていたんだ。

そのことについては、また次回。

新しい一週間も、おたがい健やかに過ごそう!

2020年5月11日(月)へねちんより

PROFILE

羽田朋美
3歳・5歳・9歳の三兄弟の母、編集者。大学卒業後、教職と迷いながらも雑誌編集者の道を諦めきれず、60 社の入社試験を受けて全て落ちたのちの最後の一社である編集プロダクションに「執念」の入社。アイドル誌の編集、アイドルの写真集の編集に携わる。2001年よりローティーン誌『ラブベリー』(徳間書店)編集部勤務。深夜帰宅・徹夜が当たり前の過酷な日々であったが、充実した雑誌編集者ライフを送る。2004年より同誌副編集長・編集長を歴任。2010年長男を出産し、産後2ヶ月で「執念」の職場復帰。ママ雑誌発刊への夢を膨らます。2011年、ママ雑誌『Neem』を企画。2012年2月、同誌を立ち上げ編集長に就任。2013年4月、徳間書店を退社。編集チーム「Neem Tree」を設立。趣味はキャンプと家族旅で、タイ、スリランカ、ボルネオ島など自然豊かな地を巡る。
【Instagram】tomomi_26_tree

関根麻貴
ファッションエディター/ライター/ディレクター。主な仕事に雑誌『装苑』『FUDGE』『KINFORK』、多数のブランドムック、英国ブランド『MARGARET HOWELL』『SUNSPEL』の日本版カタログ制作など。2019年春よりロンドン暮らしをスタート。東京でもロンドンでも生活は変わらず、ひとり気の向くまま過ごす日々。趣味は写真、映画、アート、コンテンポラリーダンス観賞、旅、ヨガ。モットーは「人生は全部ひまつぶし」。真面目に、全力でひまをつぶしています。
【Instagram 】sekinemaki 
【note】https://note.com/makisekine/m/m48fb72d934d5