往復書簡 LONDON⇄東京 vol.6|関根麻貴

ロンドンで暮らすマキオくんこと、エディター・関根麻貴と、東京で暮らすへねちんこと、ニームツリー・マガジン編集長・羽田朋美の往復書簡

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へねちん

もう4月も終わるね。

こちらはほぼ毎日快晴、20度を超える日もあって、窓から見える緑が日に日に元気になっていく。
散歩していても街中に植物があふれていて、ロンドンの魅力って、ファッションやアートはもちろんこの緑豊かな環境だとしみじみ感じているよ。

ロックダウン6週目。お店の入場規制も、2m離れて待つのも当たり前になってきた。
近所を散歩していると、閉まっていた生活雑貨店が営業再開したり、軒先でテイクアウェイの販売をするレストランが出てきたり、ほんの少しだけ街に変化が。芝生が生い茂ったせいか、公園でエクササイズする人の姿も増えてるよ。いっとき空っぽだったスーパーの品揃えは、ほぼ元通りになった。この生活に慣れ、街の雰囲気はよくも悪くも落ち着いてはきたけれど、イギリスの感染者数は15万人を超えていて、あらためて気を引き締めていかなきゃいけないね。

お父さん頑張れ
ショップの入口には、感染防止のための注意書き

私はというと相変わらずルーティンをこなし、おかげさまで平穏に過ごしているんだけど、辛いことがひとつだけある。それはボサボサに伸びた髪! ショートだから縛れないし、自分じゃ切れないし、いっそのこと坊主にしてしまおうかと血迷った瞬間もあったよ。笑 
あとは2週間ほど肌断食をしてみたり(効果は今のところ不明)、卵を買いすぎてプリンを作ってみたり(あの料理嫌いだった私が!)地味に、はじめての経験をいろいろしてる。

わさびピーナッツバター(!)にキュウリ、塩、という驚きのレシピが美味しくってハマり中

これだけ同じリズムで生活していると、自分の好不調にすごく敏感になるね。
先週はなんだか調子が悪くて、やたら眠いし、大して動いていないのに疲れていたの。バイオリズムもあるんだろうけど、このところ頭を使いすぎていたのが理由かも。あとは柄にもなく頑張ろうとしていた。笑 「この期間にいろんなことができる!」と意気込みすぎて、本来のペースじゃなくなっていたようで。ある日ふと「なんか私、焦ってる?」と気づいたら楽になったよ。
焦ったり頑張りすぎてると、できないことがストレスになるんだよね。それからは何事も気負わずやるようにしてる。

皮肉にも今、人生でいちばん規則正しい生活をしているんじゃないかな。
朝起きてヨガして、勉強と仕事して、自分で食事をつくり、24時前には就寝。そしてこれは私だけじゃなく、周りの友人たちもおんなじで。
「仕事はないけど、生活はすごく健康的になってる」「いかに忙しかったか気づいた」と、強いられた状況の中で、みんなそれぞれ何かを感じているみたい。
交通量が減りきれいになった空や空気を味わって「人間がどれだけ街を汚していたか分かった」という人も。これは私の経験だけど、ロックダウン直後はほぼ空っぽだった道路に、最近車が増えだしたのね。それを見て「空気を汚してる」と感じた。
不思議だよね、今まで当たり前だったことが、違和感になっている。この先ロックダウンが終わり、従来の暮らしに戻ったとき、みんなが“元通りの光景”をどんな風に感じるんだろうと、気になっているよ。

もちろん、事態の早い収束を願ってる。悲しい思いをする人がなくなって、医療関係者が安らげる日が一日でも早く来てほしい。旅したり、自由に街へ出ることも恋しい。
でも一方で、環境や生活の質を考えたとき、果たして“以前と同じ”に戻ることはいいことなんだろうか? とも。環境に政治、教育、日々の暮らし、あらゆることに対していま感じていることを、コロナ後の世界にはどんどん反映していくべきだと思ってる。日常を取り戻したうえで、何か根本的な変化が必要になってくるんじゃないかな。いや意図せずとも、勝手にそう流れていくかもしれないね。
そしてはねちゃんが言うように、この時代のうねりは子どもたちにとってすごい体験なんだろうな。いまの子どもたちは、大人世代とはまた格段に違った人生観や生き方を身につけていく気がする。

NHSへの感謝を示すキッズ作のレインボー、たくさん見かける

ふと思ったんだけど、私たちは、視界をあえて狭めてみるときが来たんじゃないかな。
インターネットで世界はぐんと広がり、拾える情報も多くなったけど、見えるものが多すぎて肝心なことを見落としていたり、遠くのことに気をとられて(自分の暮らしには全く関係がないのに!)身近なところが見えていなかったり。行動が制限されている今こそ、もっとぐいぐい自分の生活にフォーカスを絞って、今日の体調はどうか、何が食べたいか、何をしたいか、そういう超・基本のことにもっと意識的になる。はねちゃんが言っていた「幸せに自分を生きる」って、まずはそこからで、しっかり自分が築けたときに、それが他人や社会への思いやりにつながっていくように思う。

思いやりといえば、ロンドンではちょっとした親切をたくさん見るの。バスや電車では当たり前に席の譲り合いがあるし、誰か困っていると誰かが声をかける。さらに知らない同士でも挨拶するし、バスを待ちながら世間話したりしてる。ホームレスの人とタバコ吸いながら話す人なんかも。小さなことだけど、社会にはこういう些細なつながりが必要で、それが暮らしの充足感を生んでいくんじゃないかな。

散歩中に見つけた好きな壁

あ、この前憲法の話をしてくれたけど、私も同じく25条の「文化的な」が好き!
「健康な最低限度の生活」だと誰かに生かされてる感じがするけど、文化的って言葉には、望むものを選びとれる自由や人生の喜びを享受する権利など、豊かさが表現されているよね。
文化的……今の生活でいちばん欲しているのはそれかも。オンラインで映画や舞台を観られる状況ではあるけれど、やっぱり舞台や映画館、ギャラリーに足を運んで、場所の空気を体感したいなー。

次にこれを書く頃には、イギリスも日本もまた大きく変わっていそうだね。

よき方向に進むことを願いつつ、今日はここで。
(前回の4946は爆笑したよ。逆さにしたうえに数字で書く人、ほんと久々に見た!笑)

2020年4月28日(火) マ。

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関根麻貴
ファッションエディター/ライター/ディレクター。主な仕事に雑誌『装苑』『FUDGE』『KINFORK』、多数のブランドムック、英国ブランド『MARGARET HOWELL』『SUNSPEL』の日本版カタログ制作など。2019年春よりロンドン暮らしをスタート。東京でもロンドンでも生活は変わらず、ひとり気の向くまま過ごす日々。趣味は写真、映画、アート、コンテンポラリーダンス観賞、旅、ヨガ。モットーは「人生は全部ひまつぶし」。真面目に、全力でひまをつぶしています。
【Instagram 】sekinemaki 
【note】https://note.com/makisekine/m/m48fb72d934d5

羽田朋美
3歳・5歳・9歳の三兄弟の母、編集者。大学卒業後、教職と迷いながらも雑誌編集者の道を諦めきれず、60 社の入社試験を受けて全て落ちたのちの最後の一社である編集プロダクションに「執念」の入社。アイドル誌の編集、アイドルの写真集の編集に携わる。2001年よりローティーン誌『ラブベリー』(徳間書店)編集部勤務。深夜帰宅・徹夜が当たり前の過酷な日々であったが、充実した雑誌編集者ライフを送る。2004年より同誌副編集長・編集長を歴任。2010年長男を出産し、産後2ヶ月で「執念」の職場復帰。ママ雑誌発刊への夢を膨らます。2011年、ママ雑誌『Neem』を企画。2012年2月、同誌を立ち上げ編集長に就任。2013年4月、徳間書店を退社。編集チーム「Neem Tree」を設立。趣味はキャンプと家族旅で、タイ、スリランカ、ボルネオ島など自然豊かな地を巡る。
【Instagram】tomomi_26_tree