人生を豊かにする旅の話「すまあみさんの島日記 第4話 石垣島 2020年冬」

休みがあると、日本の島に行きたくなる。

島は自然にあふれていて、都会からすると少し不便なこともあって、かわりにのんびりと時間が流れている。そこで生活をしたいから、できれば1週間とか、長くステイするスタイルの旅を好む。島にいくと私たち家族も変わっていく。テレビも携帯もない日々とか、朝おきがけに海に飛び込むとか、夕飯のおかずをしとめに釣りをするとか、星をながめながらおしゃべりする時間とか。大切な体験が増えて、自然があると、沢山はいらないんだって思うんだ。

▶︎▶︎▶︎前回はこちら「すまあみさんの旅日記 第3話 八丈島2019年夏〜2020年冬」

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 夫・一清の新しいプロジェクトの2件目の土地探しが始まったので、2020年のお正月から、続けて2回石垣島に行く機会に恵まれた。それぞれ1泊と2泊の短い滞在だったけど、両日ともパートナーT氏と彼の三人娘と一緒に行った。T家とはちょくちょく一緒に旅行をしていて、娘たちも大の仲良しだから、娘のにこは大喜びだった。
早朝の便で到着して、みんな空腹だったから「気持ちのいいカフェでまずはのんびりしたいねぇ」ということになった。
気候も過ごしやすく、でも夏みたいに「がんがんあそぼうぜっ」ってスピード感でもないところが、冬の島旅の醍醐味かもしれない。
レンタカー屋さんに教えてもらったカフェは、天井が高くて開放的な風通りのいい空間だった。外に手作りブランコがぶら下がっていて、子どもたちはすぐ裸足で芝生の上を転がりだした。
大人は海風に吹かれてスムージーとパンケーキを食べながら、「気持ちいいねぇ!」「最高だねぇ!」と言い合った。
いつも思うけれど、気候がよくて自然があるだけで、子どもたちはなんて楽しそうなんだ。

この日のお宿は町の中心地から30分ほど外れた静かな場所にある一軒家だった。
目の前は淡い光がきらきらした穏やかな海が広がっていて、庭からすぐに行けたから、子どもたちは早々に水着になってとびだした。大人もいそいそと用意して子どもたちの後を追って水に入ったけれど、1月の海は南の島とはいえ冷たくて、足だけ入ってすぐに出てきてしまった。
こどもたちは「全然つめたくないー」ってバシャバシャしていた。楽しいが勝って、冷たさを感じないんだろうか。すごいなぁ。

ひとしきり遊んで部屋に帰ってきたらお父ちゃん二人がぐうぐう眠ってしまったので、団子になって遊んでる子どもたちを置いて、ひとりでちょっと海沿いを走りに行くことにした。
半袖に短パンで気持ちがいい。大きな幹に植物が寄生していて、一本で森みたいに見える木とか、鮮やかな色の花とか、東京と違う植生を見ているだけで楽しい。灯台があったから寄り道したり、鳥居があったからくぐると、熱帯植物に囲まれたひなびてでもエキゾチックなお社があったりした(若い頃に見た今村昌平監督の『神々の深き欲望』を思い出した。また見よう)
お宿に帰ってこどもたちを誘って、ランニング中にみつけたさとうきびジュース屋さんに行った。パイナップルやグアバやマンゴーとサトウキビのフレッシュジュースはガツーンと甘くって、みんなにこにこしちゃうくらい美味しかった。

次の日はマングローブカヤックに行こうということになった。ちょっと霧雨が降っていて、でも暖かい朝だった。にことひとつ上の4年生のSちゃんはふたりだけで乗ると盛り上がっていた。大きくなったもんだ、頑張れぇ。
水の上をするするーっと滑るカヌーが、あんなに気持ちのよいものだとは知らなかった。腕の使い方次第でぐんぐんスピードをだせる感じも、自分が乗り物になっちゃったみたいで面白かった。朱鷺が私たちの横を低空飛行していた。
たまにくるくる同じ場所を回っちゃう娘たちを笑ったり応援したりしながら、枝が垂れ下がった木のトンネルや、幅の細いところを通って進んだ。大きくて立派なガジュマルを通り過ぎたら、インストラクターのお姉さんがガジュマルの木に住む精霊キジムナーの話をしてくれた。深くて豊かな自然に説明できない何かが宿っていることを信じる気持ち、なんだかわかるなぁってくらいの静かな深い緑を進んだ。

2回目の旅は夫たちの手配で、島の東側の自然保護区域のジャングルの横にあるバンガローを借りた。
周りには他に家が一軒もなくて、庭のジャングルから極上のビーチに出られる。裸足で走り回れる庭には手作りのハンモック形の遊具やブランコ、バスケットゴールもある。大きな自然の中に埋もれるようにあって、プライベートでシンプルで、まさに理想的な島暮らしの家だった。
みんなこの家をいたく気に入ってしまったので、2日間、ただただこの家と海と森を満喫して過ごすことにした。
朝起きたらビーチで瞑想をしたりヨガをして、ビーチで泳いで、カヤックに乗り、寒くなったらバンガローにもどって庭で火をおこしてちょっとご飯を食べて、昼寝をしたらまた海に行った。

カヤックを持ち上げたら、下にこぶしぐらいのサイズのヤシガニが眠っていた。
びっくりするぐらい大きなチョウチョが飛んでたし、夜窓ガラスに見たこともない茶色い模様のクワガタが激突してきたりした。それからやっぱり夜、テラスのハンモックで本を読んでいると、聞いたこともない色々な鳴き声がジャングルの方々からして、耳を澄ますのが面白かったから、子どもたちを集めてみんなで聞いた。
初めて聞く、猫の鳴き声に似ている何かの声がすごく近くに聞こえて、みんなで「なんだろう」と頭をひねらせた。

夜行性だから見つけるのは難しいらしい

子どもたちが寝静まってから、大人3人で海辺にでてみようということになったけれど、真っ暗すぎて、ジャングルと海がなんでだかすごく怖くて、駆け足で行って帰ってきた。ジャングルにも海にも、目に見えない何かが潜んでいて、いたずらに侵してはいけないような気がした。
今思い出すと、いい大人3人がびくびくして、可笑しいったらありゃしないんだけれど。

島に通うようになって、自然の中にいる時間に慣れてきたら、だんだん何もしなくなったと思う。
それが一番の贅沢だと思うようになった。もちろん最初は「あそこにいこう、あれもやってみよう」と忙しくしがちだったけれど、
今はただ自然豊かな環境に、のんびり身を委ねることを楽しみに思って島に向かう。
そして我が家では「いつか南の島に住みたいね」と家族で口にするようになった。
今すぐそれが実現できる訳じゃないけど、夫は今できる方法として「島に通える家がたくさんある」ビジネスアイデアを考えてしまった。それがうまくいくかなんてわからないけど、夫たちが何よりも「家族と過ごす時間」を大事に思っていることがうれしいし(そういうタイプの人間じゃなかったし)、家族一緒になって「これからはどう生きたいか」、理想のライフスタイルを模索できているのが何といっても良いなと思う。
さて、人生のネクストチャプター、いったい何が起きるんだろう。考えるとわくわくするな。

そういえば、バンガローで聞いた夜中のねこのような鳴き声の正体は、なんと孔雀だそうだ。
帰りがけに宿のオーナーが教えてくれて、一同驚きの声をあげた。

(終わり)

PROFILE

すまあみ
ウォールペインター。東京出身。16歳より17年間を北米で過ごす。 NYでライターとして活躍したのち「人を笑顔にする仕事がしたい」とこども部屋のカスタムペインターに転身、 現地でこども部屋やキッズショップのウォールペイントを手掛けた。 2010年に日本へ帰国し長女日子(にこ)を出産。現在は個人宅のほかに、保育施設や公共施設、ファッションストアや百貨店等での作品提供等を行っている。2015年にはファミリアが運営するプリスクールのアート 講師に就任し、こどもの自由な感性によりそったアート教育に従事している。
【HP】https://www.amisuma.com/  
【Instagram】https://www.instagram.com/amisuma/?hl=ja